内側の記録

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Mobike、最新モデルによる‘反撃の一手’ 車両そのものから見る中国シェア自転車業界

(2020年5月追記)あれから2年半が経過してシェア自転車業界はどうなったのか

記事執筆時点(2017年11月)ではofoとMobikeの2強がトップシェアを競い、海外進出も進めている段階でしたが、中国国内では各都市を拠点とした中小シェア自転車業者も勃興し、過当競争に突入しました。その後、台数過剰による管理コスト増大・収益性低下により、体力のない事業者から倒産し、各都市に放棄されたシェア自転車の墓場が現れるようになりました。ofoとMobikeもそうした流れからは逃れられず、投資家離れや利用者によるデポジット取り付け騒ぎが起きました。

現在は、各都市での台数制限や利用料引き上げにより持続可能な事業環境を整え、Mobikeを買収した美団(フードデリバリー大手)・哈囉出行(アリババ傘下)・青桔単車(ライドシェア大手滴滴傘下)の大手3社体制となっているようです。詳しくは添付の記事をご覧ください

36kr.jp

個人的には、中国(特に北部)は冬季めちゃめちゃ寒く日没も早いため自転車に乗る気にならなかった経験があり、季節的な収益の変動をどう乗り越えるかという課題がある気がします。

日本のシェア自転車事業は収益化できてるんですかね…?

 

 

(筆者注:Mobikeからもofoからも対価は得ていません。広告宣伝費5000兆円欲しい!)

 

業界2位に転落したMobike

Mobike(モバイク、摩拜单车)、そしてofo(オフォ、小黄车)の日本進出も始まり、注目度がますます高まっている中国シェア自転車業界ですが、業界第3位と言われていたbluegogo(小蓝单车)がどうやら破綻したようで、Mobikeとofoの大手2社に業界が再編されるようです。

(bluegogoは自転車そのものはMobike、ofoに比べ先進的だったのですが、市場での供給台数が少なすぎ、ユーザーの獲得に失敗した感があります。あるいは、その自転車の先進性からくるコストの高さが供給過小の原因だったのかもしれません)

そのシェア自転車大手2社ですが、先行していたmobike(テンセント・騰訊系)をofo(アリババ・阿里巴巴系)が追い抜いた情勢となっています。体感でも、北京市内ではofoの黄色い自転車のほうが多く、また、中国人の会話からもofoの自転車を意味する「小黄车」がシェア自転車の代名詞として定着していることから、ofo優勢なのは確かなようです。

forbesjapan.com

Mobikeとofoはどこで差がついたのか

Mobikeがofoに対して劣勢にある理由は複数考えられます。例えば、ofoが支付宝(アリペイ)での決済を採用していることに対してMobikeが微信支付(wechatペイ)を採用している点。市中での体感では微信支付のほうがちょっと弱いように思います。ただ、ほとんどの中国人は両方の決済方法を使っているため理由としては大きくはないでしょう。アプリ・決済・スマートロック等の使い勝手はMobikeのほうが便利なため、この点ではMobikeのほうが有利と評価できます。個人的には、Mobikeとofoの差は決済方法やアプリよりも自転車そのものにおいて大きいのではないかと考えています。

 

Mobikeの自転車の欠点

Mobikeの自転車は、簡単に判別できるだけで4つものモデルがあり、しかも各モデルが体感では2:2:1:1くらいの比率で市中に溢れています。複数モデルがあり規格化されていないことで調達コスト・維持コスト等に悪影響があるのではないでしょうか。一方でofoは体感では全車両が規格化されたほぼ単一のモデルで、別モデルもありますがその数量は主力モデルの1割にも満たないようです。ofoの車両がmobikeよりも多いのは、規格化されていることによる調達コスト・維持コスト等の差もあったのではないかと思います。

また、ユーザーとしては、Mobikeの自転車そのものにも色々な不満がありました。いくつか列挙すると、

・車両が重く扱いにくい

・ギア比がofoに比べて軽くスピードを出しづらい

・一部モデルではサドルの高さを調整できない

・泥除けが不十分

・銀色を主として一部オレンジ色というカラーリングのため、全体が黄色のofoに比べ見つけづらい

などです。アプリ・ロック周りは優れているだけに、1人のユーザーとしては残念だと思っていたところでした。

 

Mobikeの最新モデルはどこが変わったのか

2017年9月下旬にMobikeがシェア自転車の最新モデルを発表しました。

mobike.comまた、11月中旬には実際に北京市内で(まだ数は十分ではないですが)見かけるようになりました。新車が数台固めて置かれていたので、今後は従来モデルを置換する形で供給が進んでいくのかもしれません。

f:id:Tuesday_Ver8:20171123160358j:plain 最初に発見した時は夜間でしたが、昼間に従来モデル等と比較する機会が(運良く)ありました。ちなみに場所は弊学の図書館です(10mくらいの範囲でMobikeの全モデルを集められたことからも、いかにMobikeの車両が統一されていないかがわかります)。

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右から、比較のために置いたofo主力モデル、そしてMobikeの经典版(クラシック)、その改良型の风轻扬(エアーライト、とでも訳しましょうか)、轻骑版(ライトライド)、轻骑版改良型、そして最新型となっています(ちなみに、Mobike公式では经典版→轻骑版→风轻扬→最新型という世代分けをしているようです)。

经典版は駆動系統にシャフトドライブを採用し、フロントフォークとチェーンステーを片側のみとしたことでかなり先進的な見た目となっていますが、車体がかなり重く、またギア比が軽いためスピードを出しづらいモデルでした。また、シャフトドライブ部が大きくペダルが中心軸から対称ではないという欠点もありました。风轻扬(普段は極力これに乗ります)はシャフトドライブ部がスリムになり、車両も軽くなったため多少はスピードを出しやすくなりましたが、これもギア比が軽いため急ぐ時はかなりシャカシャカ漕がねばならず疲れやすいです。両者は一見似ていますが、メインフレーム、ホイール、ブレーキ等が異なるためパーツの共通性はほとんどなさそうです。

轻骑版(初代、二代)は駆動系統をシャフトドライブからチェーンに変えたため(おそらく調達コスト削減のため)、经典版に比べスピードを出しやすくなりましたが、ofoに比べるとギア比が軽くスピードを出しづらい感があります(また、チェーンが外れるという欠点も生じました)。一部の轻骑版は維持管理を簡便にするためかサドルの昇降機能が省かれており、サドルの位置を低く感じることが多いです。見た目は似ているこの両者もメインフレーム、ハンドル、サドル、泥除け、前輪ブレーキ等が異なっており、パーツの共通性は高くなさそうです(後輪ブレーキ等は共通化された模様)。

 

最新モデルでは、经典版・风轻扬のようなプロポーションを維持しながら、チェーン駆動を採用して調達コストにも配慮しているようです。車体のほぼ全体がオレンジ色のカラーリングとなり、従来モデルよりも見つけやすくなりました。公式のプレスリリースによると重量は業界最軽量の15.5kgらしく、実際に持ち上げるとかなり軽く感じます(この点は駐輪場を整理する係員やシェア自転車のメンテナンスをする従業員からも好評なのではないでしょうか)。

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ユーザーにわかりやすく改善された点はサドル昇降機能でしょうか。従来の一般的なシートピンをレバーによってぐるぐる回転させる形状は、様々な人間が利用するというシェア自転車の特性上、調整しづらく壊れやすいという欠点がありましたが、大きなレバー形状に変更したことによって、寒い季節に手袋をつけた状態や力の弱い女性・高齢者等でも簡単に調整できるようになりました。また、調整幅も拡大されて身長155cm〜180cmまで対応できるようになりました(筆者は身長172cmですが、170cmに目盛りを合わせるとまさに漕ぎやすいサドル高さだったので感動しました)。

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ギア比も改善されたのか、従来モデルの漕ぎ出しの軽さはそのままに、さらにスピードが出しやすくなっています(漕いでいる時は全く気付かなかったのですが、プレスリリースによると自動変速機が内蔵されているらしいのでそのおかげかもしれません)。車体の軽量化やタイヤの改良もされているので、スピードが向上しただけでなく安定性も増した感があります。

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また、シェア自転車全般の傾向として前カゴが浅く物を入れるのが不安という欠点がありましたが、その点も改善されました。泥除けもタイヤの前方から後方までを覆うような形状になっています。Mobikeの従来モデルが抱えていた欠点をおおむね解消し、ofo主力モデルよりも使いやすい自転車になっていると評価することができます(内蔵自動変速機を採用したことによる調達コスト・維持コストが心配ですが)。

 

今後のシェア自転車の発展戦略:量から質への転換は起こるか

シェア自転車においてはシステムそのものに注目が集まるため忘れられがちですが、シェア自転車がサービスとして提供しているのは「自転車に乗って移動すること」であり、自転車に乗ることが最大のユーザーエクスペリエンスと言えるため、(十分な数量の)「乗りやすい自転車」を提供することがユーザー獲得に寄与することは間違いないでしょう。シェア自転車の台数そのものは大都市においては供給過剰な状況も発生してきており、今回のMobikeの新モデル投入は「量から質」への方針転換と言えるかもしれません。不具合・故障が多いことも中国シェア自転車の欠点でしたが、業界が大手2社に再編され、量から質へ方針転換することによってメンテナンスへの投資が増加することも考えられます。シェア自転車業界が進歩し自転車台数やアプリ・決済方法によって差がつきにくくなった状況で、乗りやすい最新モデルを投入することによってMobikeはどこまで巻き返すことができるか、それに対し業界最大手のofoがどのような手を打ってくるか、今後の世界のシェア自転車業界を左右する2社の戦略が注目されます。